ネットワークに風が吹く。吹き荒れる風が肌を突き刺し,視界を遮る。…誰か,いるのか? …悪寒にハッと気付いて振り向こうとした瞬間,首筋にかすかに触れる指先を感じた。それが,最期だった。
マサチューセッツ工科大学とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者によって,ボストンとロンドンをインターネットで結んだハプティック(触覚)技術の実験が行われた。触覚刺激が脳に伝わる時間ほどにネットワークの伝達速度が速くなれば,ネット上での作業が自然な感覚で行えるようになる。
残っている問題は,やっぱりネットワークのスピードが行動と同期するのか,というただそれだけ。タイムラグのある電話やTVなどでの違和感とまったく同じで,ただそれだけだ。それが解決すれば,ネットワークで触覚は普通に用いられるものになる。触覚が伝わるのか,とか,どう触れるのか,なんてことはすでに解決している問題だ。
ファントム(PHANToM)というハプティックデバイスの名前は,当然ファントマ(PHANTOMa)を思い出させる。ファントマとは,スーヴェストル&アランの書いたミステリーに出てくる大怪盗の名。悪魔のような犯罪者がネットワーク上に触覚を持って現れる,という図式は背中がぞくぞくするほど愉快だ。血も凍るような,魔の手が忍び寄ってくる,その手が首筋に伸びてきて,ぎゅっとつかみあげる,IPによるそんな社会を,憧憬しよう。
|